2023-12-30 19:55:00+09:00

『分断と凋落の日本 古賀茂明』

読書中であった

読書中であった。

分断と凋落の日本 古賀茂明

どうして本邦がうまくいかないのかの原因は概ね見える向きには見えていると思うが、 これはまあ、その今年版スケッチ的な。

で、今後どうするかに関しては、 『日本は、その強みを活かして世界の「下請け大国」を目指すしかない。』 というところは賛同できる部分。

『強み』は分野でいうと素材やら製造機械やらになるが、 最近はそこは守ろうという姿勢さえ本邦に見えなくなりつつあるところが心配。

以下抜き書き。

第1章 安倍首相が築いた「戦争ができる国」が本当に戦争を始める日

そこで、あまり報道されない第二次安倍政権が誕生した2012年度以降の決算額 (2022年度と2023年度は予算額)を並べてみると、既に5兆円の壁を突破し、 2021年度には既に6兆円を突破していた。 2022、2023年度は当初予算額なので実際の決算額はこれを大きく上回るはずだ。

しかも、ここには「後年度負担」=「兵器ローン」というカラクリが隠されている。

自衛隊が購入する兵器は高額のため、複数年度の分割払いにすることが多い。 購入代金の一部しか予算に計上されないため1年目の予算額は小さくなるが、 残額が次年度以降に「ツケ」として残る。 特に米国製武器は割高なうえに、後に述べる通り言い値で買わざるを得ない仕組みを 強要されるので、安倍政権時代の米国製武器"爆買い"は後年度負担を急増させた。 その結果、年間の防衛予算を上回る5兆円超となったのだ。 "異次元"の防衛費増額は実は、"妖怪の孫"が率いる 安倍政権時代から始まっていたというわけだ。

"妖怪の孫"は岸田首相になってからも露骨に政権を操り続けた。

2022年6月(安倍氏銃撃直前である)に岸田政権発足後初めて作成された 経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)には「5年以内に防委費をGDPの2%まで増やす」 ことが明記された。 原案には「防衛力を抜本的に強化する」とだけ書かれていたが、 安倍氏からの強い要求によって具体的な期限と数字が明示されたと新聞各紙が報じている。


かつてはアメリカからさまざまな要求があっても、日本が全部受け入れることはなかった。 もちろんアメリカの方が立場が強いことに変わりはないが、 それでも日本が筋を通して説得すれば、アメリカ側が譲歩することもなくはなかった。

ところが、安倍政権は要求もしていないのに アメリカの利益になるようなことをやってくれて、見返りは求めない。 アメリカにとって都合のいい最高のパートナーだ。 トランプ氏が「シンゾーは私のベストフレンドだ」と言う意味がおわかりいただけたと思う。


そもそも北朝鮮が日本の国土に先にミサイル攻撃を仕掛けることはあり得ない。 軍事行動はすべて政治の延長にあり、国家として何か得るものがなければ実行されない。 北朝鮮が日本にミサイルを落としても何も得るものはない。 逆に日米安保条約が発動されて、米軍に北朝鮮攻撃の口実を与えるだけだ。 北朝鮮が先に仕掛けたとなれば、中国の参戦も期待しにくい。 惨敗は必至だ。 金正恩体制が、そんなバカなことをするはずがない。 そう考えると、北朝鮮対策で敵基地攻撃能力を保有する意味はほとんどないということだ。


日米が組んで台湾独立を支援するのではという疑念がいまも中国にはある。 軍事的には日本が自ら進んで米軍との一体化を進めている。 日米の動きによっては、独立機運が極限にまで高まる可能性がある。 その時は中国による台湾侵攻が起きる可能性は否定できない。

だったら台湾有事に備えるべしと考えるべきか。 答えはNOである。 日本としては、米国議会の動きを止めることはできないかもしれない。 だが、日本が直接攻撃される恐れがない限り関与しないと言えば、 実は台湾有事は起きないと考えられる。


これに対して、そんなことをしたら日本に対する米国の信頼を損ない、 日米同盟を崩壊させることになるから日本は基地使用を断るべきではない という議論が出るだるう。

だが、日米同盟を守るために日本国民の命を奪うのかと自問すれば、答えは自明だ。 日米同盟は日本人の命を守るためにあるはずだ。 つまり、日米同盟は手段であって目的ではない。 その手段をとることで本来の目的と真逆のことが起きるなら、 ためらうことなくその手段をとる選択肢を放棄すべきだ。 現に、安保条約では事前協議で米軍の基地使用を拒否できる。 そのことをしっかり想起すべきである。

米中間にはいま"憎悪"の感情が渦巻いている。 日中間もそうだ。 しかし、単に憎悪だけにとどまっている限り、問題はコントロールできる可能性が高い。 しかし、そこにもうーつの感情、"恐怖"が加わると危険性は一気に高まる。 特に、「やらなければやられる」という恐怖が加わると一種の"狂気"が生まれる。 中国には、いまその恐怖が生まれつつあるように思える。 米国の尋常ではない先端技術封じ込め政策は 中国の将来の発展の芽を摘みにきたと捉えられている。 少子化で将来の経済力に不安がある中国が、 中国の衰退を見た日米が台湾独立支援に舵を切るリスクが高まると考えるのはある意味、 合理的だ。

第3章 出口なきアベノミクスが日本を滅ぼす

もう一つ気になったのは、 ファーウェイが2021年に日本から1.1兆円もの調達を行っているのに対して、 米国はこの数倍の巨額の部品類をファーウェイに売っているということだ。 とりわけ半導体関連で日本企業が対中国輸出を抑えているのに、 米国企業は米政府に例外を認めさせることに力を入れ、 2022年は21年よりも輸出を増やしている。 本来制裁の打撃を受けて対中輸出が激減するはずの半導体関連企業が、 一番儲かっている例もあるとのことだ。

「米国はルールを作る国、日本はそれに従う国」という中国人の見方も あながち的外れだとは言えない。 ルールを作る国は、自分たちが損しないようにルールを作り、 例外措置も自国企業には優先して認めるが他国企業はほとんど認められない。


繰り返しになるが、日本がいまさら最先端半導体製造で世界トップに並ぶのは はっきり言って無理だ。 TSMCの関係者に聞くと、日本企業は半導体製造には一番向いていないという。 いまの半導体産業はスピードとリスクとの戦いだ。 兆円単位の投資を継続的にしかも他の企業に先駆けて行うことを継続する必要がある。 日本企業の経営者はリスクが取れず、意思決定のスピードも遅い。 だから、日本企業は半導体製造には向かない。 しかも、それは個々の経営者の問題ではなく、企業文化の問題で、 一朝一タには変わらないと言うのだ。


日本は、その強みを活かして世界の「下請け大国」を目指すしかない。


しかし、ここでも、日本政府はとんでもない政策ミスを犯している。 風力発電を大型化すると、 一部の欧米企業と組んだところしか参入できなくなるという理由で、 プロジェクトの規模を比較的小規模に抑えようとしているのだ。 その影響は既に現れている。 デンマークのベスタスは、当初日本で計画した大型風車の工場建設を撤回した。 シーメンスなども日本への供給を見直すという。 2023年1月には、ベスタスが韓国に3億ドル投資して工場を作り、 アジア・太平洋地域の本部をシンガポールから韓国に移転すると発表した。 日本から韓国に乗り換えたのだ。 日本政府の失敗の典型だが、そうした報道はない。