2023-12-30 21:46:00+09:00

『ザイム真理教 森永卓郎』

読書中であった

読書中であった。

ザイム真理教 森永卓郎

何かと話題な著者の何かと話題の著書。

財政均衡主義が問題だという主張には賛同できるし、各論も妥当に思われる。 で、だいたいは既知の内容であるが、 通貨発行益についてはよく知らなかった。 ここはもう少し調べてみたい。

思いつきだが、財政ファイナンスを否定する論は、ともすると、 戦後支配的になった記紀の記述には資料的価値なし論に 似ているかもしれない。

どちらも取り扱い注意ではあるが、存在を否定できるような事ではないという意味において。

以下抜き書き。

1. まえがき

そして、もう一つ、強調しておきたいのは、財政均衡主義は、 長期的にも間違っているということだ。 じつは財政の穴埋めのために発行した国債を日銀が買ったときには、 その時点で事実上政府の借金は消えるのだ。

まず、元本に関しては、10年ごとに日銀に借り換えてもらい、永久に所有し続けてもらう。 そうすれば、政府は返済の必要がなくなる。 政府は日銀に国債の利払いをしなければならないが、 政府が日銀に支払った利息はごくわずかの日銀の経費を差し引いて、 全額国庫納付金どして戻ってくるから、実質的な利子負担はない。

そんな錬金術のようなことができるのであれば、 世界中で税金徴収の必要がなくなるではないかと思われるだろう。 もちろん、こうしたやり方には限界がある。 やりすぎると高インフレが襲ってくるのだ。 ただ、現在の日本では、このやり方での財政資金調達の天井が相当高いことを、 アベノミクスが図らずも証明したのだ。

2. 第1章 ザイム真理教の誕生

宗教化する財政健全化

最近、金融教育家の男性から興味深い話を聞いた。 彼は、財務省の若手官僚と交流があるそうなのだが、 若手の財務官僚の半数は、財政均衡主義に疑問を持っているのだという。 ただ、そのことを省内で口に出すことはできない。 もしそんなことを言ったら、出世コースから外されるか、最悪の場合、 地の果てに飛ばされてしまうからだ。 だから中高年の上司の前では、財政均衡は大切だと言い続けないといけない。 そうして、何度も財政均衡を口にするなかで、だんだん財政均衡主義が体中を蝕んでいく。 そのマインドコントロールは強烈だ。

3. 第3章 事実と異なる神話を作る

通貨発行益という巨大財源

しかし、日本銀行券は単なる印刷物ではない。 資産の裏付けがあるのだ。 日銀は何かの資産を買う。 その代金として、日本銀行券が支払われるのぼだ。 買う資産はなんでもよい。 たとえば、株式でも、不動産でもよい。 実際に日銀は株式もREITという不動産の投資信託も買っている。 だが、日銀が買っている資産でもっとも多いのは国債だ。 国が元利の支払いを保証しているし、 満期まで持てば元利が保証されているのでリスクが小さいからだ。

ここで、日銀が国債を買って、それを満期が来るたびに借り換えて、 永久に日銀が保有し続けたら、何が起きるだろうか。

永久に借り換えるのだから、元本を返済する必要はない。 一方、日銀が持っている国債にも政府は利払いをしなければならないが、 日銀に支払っだ国債の利息は、ごくわずかの日銀の経費相当分を差し引いて、 国庫納付金として、ほぼ全額が政府に戻ってくる。 つまり、国債を日銀に買ってもらった段階で借金は消えるのだ。 もちろん、日銀が保有する国債の量を減らせば、借金が復活するのだが、 基本的には日銀が保有する国債はトレンドとして増え続けるので、 そのことを心配する必要はない。

つまり、日銀が国債を買った瞬間に、 その分は実質的に政府は返済義務を負わなくなるのだ。 逆に言うと、日銀に国債を買ってもらった分は、政府は利益を得たのと同じことになる。 私はそれを「通貨発行益」と呼んでいるのだ。

太平洋戦争で物価に何が起こったか?

ちなみに、通貨発行益の使途について、MMTが何も考えていないという指摘は間違いで、 MMTでは、通貨発行益を雇用創出プログラムに使用すべきとしている。 すべての失業者に対して一定の賃金での職を保証するか、 政府が最後の雇い手となって、完全雇用を実現すべきだとしているのだ。

私は、雇用創出プログラムの発想自体は悪くはないが、 政府による雇用保障はうまくいかないと考えている。 役人は、ビジネスのセンスをほとんど持っていないから、 それこそ無駄な仕事ばかりが生み出されてしまうからだ。

それよりも、通貨発行益はそのまますべて減税に回したほうがよいと私は思う。 増税と社会保険料の相次ぐ負担増で、多くの国民が身動きが取れなくなっている。 後述するが、消費税は日本経済に致命的な打撃を与えているので、 最優先課題は消費税率の引き下げ、あるいは撤廃だろう。やることはとても簡単だ。

消費税を引き下げて、その分を国債発行でまかなう。 そして、発行した国債は日銀に全額引き受けてもらう。 消費税は地方分も含めて年間28兆円だ。 毎年、それくらい日銀の保有国債を増やしても、なんら悪影響が出ないことは、 アベノミクスの社会実験によって立証されているのだ。

日本経済突然死論

通貨発行益を活用しようとすると、無駄遣いが増えて、 日本経済が駄目になるという論理立ては、じつは相当弱い。

そもそも国の予算は、政府の提案を国会で審議して決まるものであり、 明らかな無駄遣いを予算化すれば、内閣の支持率が低下し、政権が崩壊するからだ。

また、日本は教育機関への公的支出がOECD諾国のなかで最下位に近く、公的年金の 所得代替率(年金給付の現役世代の手取り収入に対する比率)も先進国最低水準だ。 だから、財政に余裕があったら、国民生活改善のために充実しなければならない政策は いくらでもあるのだ。


藤巻氏と共演した討論番組で私が、 「日銀は、バランスシートに国債を取得価額で載せているのだから、 途中売却せずに満期まで国債を保有し続ければ、金利が上昇しても、 バランスジシートは痛まない。 それに、日銀は自己資本比率規制を受けないので、 万が一債務超過となっても業務停止にならない。 さらに、日銀は形式的には株式会社だが、株主に議決権はないのだから、 債務超過になったとしても、業務上何ら影響を受けないのではないか」 と主張すると、藤巻氏は、 「市場参加者は、表面的な日銀の決算書をみているのではなく、あくまでも時価でみている。 だから、日銀が実質的に債務超過になった途端に、誰も利用しなくなるのだ」 と主張した。

ただ、その後、世界が注目する事件が起きた。 オーストラリアの中央銀行であるオーストラリア準備銀行の 純資産がマイナスになったことが2022年9月2日に明らかになったのだ。

大量に買い入れた国債などの債券の評価損が膨らんだためで、 藤巻氏が日銀に警告してきたのと同じ理由でオーストラリア準備銀行は、 債務超過に陥ったのだ。 この日、シドニーで講演したオーストラリア準備銀行のブロック副総裁は 「中央銀行の負債は政府が法的に保証しており、 中央銀行にはお金をつくる能力があるため、破綻することはなく、 支払い能力にも問題はない」と主張した。

その後、何が起こったのかというと、じつは何も起こらなかったのだ。 市場参加者は、中央銀行の債務超過には関心を持たなかった というのが現実に起きたことだった。

ちなみに、この事態を受けて藤巻氏は「日銀で起きる債務超過は、 オーストラリアの比ではない」と主張を修正している。

私は、経済が突然死することなどなく、 財政悪化のツケはゆっくりとやってくると考えている。 その証拠がギリシャの事例だ。

次ページの図表4のとおり、ギリシャは2012年に財政危機に見無われ、 ピーク時には10年国債の利回りが瞬間的に40%を超えた。 とてつもない国債価格の暴落だ。 ただ、金利の推移をみると、金利上昇は2年あまりかけて、じわじわ上昇しているのだ。

隠ぺいに走った財務省

それでは、どこに本当の数字があるのかというと、 2022年7月29日の経済財政諮問会議に内閣府が提出した 「中長期の経済財政に関する試算」という資料に書いてある。

それによると、2020年度の一般会計のプライマリーバランスは、 80.4兆円の赤字、2021年度は31.2兆円の赤字だった。 2021年度は、岸田政権が補正予算を握っていた。 つまり、岸田政権は初年度で49兆円も財政赤字を減らしたことになる。 そのことが引き起こす問題については後述するとして、 2020年度に80兆円ものプライマリーバランスの赤字を出したことは、 財政均衡主義という教義にとって、致命的な危機だっだ。 80兆円というのは税収全体を大きく上回る規模の額だ。

それだけ赤字を出しても金融市場や経済になんの問題も起きなかった。 しかも日本と同じような巨大な財政出動は、世界中で行なわれた。 ところが、そうした国においても、ハイパーインフレも、国債の暴落も、 為替の暴落も起きなかったのだ。

4. 第4章 アベノミクスはなぜ失敗したのか

消費税引き上げがもたらした悪循環

財政出動が足りなかったという点で、 アベノミクスが始まったときに日本銀行の副総裁に就任した 上智大学名誉教授の岩田規久男氏は、著書『「日本型格差社会」からの脱却』 (光文社新書、2021年7月)のなかで次のように述べている。 少し長いが、読んでいただきたい。

……

日本では、2013年4月の「量的・質的金融緩和」政策開始以降、 新型コロナウイルス感染症問題が起きるまで、ドーマー条件は満たされてきた。 したがって、其礎的財政収支の黒字化を目指す必要はなかったのである。

ところが、2020年以後、コロナショックが起きて、 名目成長率は20年第2四半期と第3四半期は、 それぞれマイナス9%とマイナス4.6%まで低下したため、 ドーマー条件は満たされなくなった。 しかし、コロナショックが収束すれば、名目成長率が上昇して、 再びドーマー条件は満たされるようになるであろう。 それは、ここで提案したようなデフレ脱却の政策を実施しても、 日本では長期にわたってデフレが続いたため、 人々の予想インフレ率がなかなか上がらないからである。 予想インフレ率の上昇に時間がかかれば、名目金利が上昇することにも時間がかかり、 その結果、ドーマー条件が満たされる時間も長くなる。 すなわち、長期的な財政の持続可能性を維持しながら、 デフレから脱却できる余地は大きいということである。 そこで、基礎的財政収支黒字化を急げば、経済全体で見ると、総需要不足に陥り、 財政再建は速のいてしまう。

……