読書中であった。
『 中国「軍事強国」への夢 劉明福 峯村健司 監訳 加藤嘉一 訳 』
劉明福という人物が中国でどういう地位に居るのかはよくわからない。 ひとまずは軍事面でのブレーンとして習近平に近い人物であり、 彼の論は習近平体制の軍事戦略に近い、という触れ込みをまずは受け入れて読んだ。
論じられる軍事戦略を「中国の特色ある新型戦争」と呼び、 その中身を『野蛮で陰惨な戦争ではなく、人類史のなかで前代未聞の「知能戦」 「文明戦」そして「死者ゼロ」の戦い方』とするが、具体的に説明されていないので、 内実がはっきりしない感はある。
が、論全体から推測するに、つまり軍備は強大にするが、 その(今やられているような)直接行使はしなくて済むような方向なのかとも読めなくはない。
しかしこの書がなかなかに問題なのは、ここで展開されている論が、 自由、人権、民主主義等理念がの西側諸国において現実化しているという 確信が建前としても急速に色褪せつつある今、 軍事の前提になる世界(特にアメリカについての)認識が、 相当的確だと感じられるところ。
もちろんその認識は冷戦終結後の多幸感の時代が終ってすぐに共有されるところには 共有されたものではあろうが、 全体主義やパターナリズムに拠ることはできず、あくまで個人の尊重をベースにした 理念をこそ追求すべきであるのに、いまだにその道筋が見えていないと いう位置から見ると、 むしろ基本理念が揺らがずに国家戦略をたてられるというのはやはり強いと 感じる。
チャイナドリームというのはそれなのだろうか。
その意味で、劉明福の 「日本にジャパンドリームを声高らかに提唱し、 国益の増強に努めようとする政治家はいないのか?」 という問いかけには此方も切実な思いだが、 しかし、 ジャパンドリームとは、アメリカンドリームにもチャイナドリーム にも似てはならないとは、したいところ。
もちろん地政学的にみても、本邦に大国主義は合わないのは自明として。
全体に繰り返しが多く水増し感がなくもないのだが、 そこは気にせず読むのが吉。
以下抜き書き。
習近平氏の戦略ブレーン、劉明福とは何者か (峯村健司)
ちなみに第5章は、 2020年に本書の中国語版が中国国内で出版された際には丸ごと削除されている。 習近平政権が最重視する台湾問題について、精緻かつ的確に分析していたため、 掲載が許可されなかったようだ。
差出人には「劉源」とあった。 軍の最高位の上将で、この時は軍の兵站を担う総後勤部の政治委員を務めていた。 劉源は、毛沢東に次ぐ序列2位の国家主席の地位にありながら 文化大革命で失脚に追い込まれた劉少奇を父に持つ。 習近平の2歳上の幼なじみで、習と同じく下放されたことがある。
日本の読者のみなさんへ (劉明福)
米国は民主国家とは言えない。 なぜなら国内では金権政治が募廷しており、世界では覇権国家だからだ。 米国は世界の君主のような顔をしている。 新時代の米国は革命を通じて生まれ変わり、旧来の覇権主義から脱皮することで、 新たな米国にならなければならない。
21世紀の世界にとっての最大のリスクは、「米国版ヒトラー」が出現することだ。 これは、20世紀のナチスのヒトラーよりも危害が大きくなるだるろう。 これからの20年、人類にとって最大の災難は、 「米国版ヒトラー」が第3次世界大戦を発動させることなのだ。
米国の世界覇権にとって最も重要な戦場はアジアだ。 米国のアジア政策は、「蟹戦略」と呼ばれるアプローチを採っている。 すなわちアジアの国家同士で「蟹」が共食いするように、 アジアで「内戦」を起こすやり方だ。 2匹の巨大なカニである中国と日本を互いに噛みつかせ、戦い合わせる。 それによって、日本に対し、中国を封じ込ませて戦うための 「神風特攻隊」の役割を担わせる。 その結果、中日は共倒れになる。 そうすれば、日本を十分に利用し、長期的にコントロールできると同時に、 中国を有力に封じ込め、アジア太平洋を攪乱させ、 米国の覇権を維持することができるのだ。
太平洋の両岸にある中国と米国の関係において、日本は中立を維持し、 「架け橋」の役割を担うべきだ。 このような日本は「親米」「親中」であり、中米両国から尊重されることになる。 新時代の日本は知恵を持つべきで、中国の強大化というチャンスをつかみ、 覇権国・米国によるコントロールから脱却することで、 独立自主の「新日本」になることができるだろう。
第3章 強軍化事業への道
強大な軍事力が後ろ盾としてなく、武力という手段がなければ、 平和的統一を実現することは難しい。 チャーチル英国元首相は言った。
「中国が英国の手から香港を取り返したいのであれば、戦争しかない」
英国のサッチャー元首相は回想録のなかで次のように綴っている。
「英国が当時香港を中国に返還することに同意したのは、 英国と中国の間における明らかな国力の差があったからだ」
「鉄の女」と呼ばれたサッチャーは、強大となった中国を前に、 香港を中国に返還するしかなかったのだ。 台湾問題の解決も同じで、国家の統一のためには、 最終的には強大な軍事力が必要なのだ。
米国や日本は、周辺国家と中国の領土紛争を利用する形で中国を牽制する 「封じ込め戦略」を実行しているのだ。 これは中国の政治、外交、安全保障、軍事リスクを増大させる動きである。 中国の一貫した方針は紛争を平和的に解決するというものであるが、 強大な国防と軍事力こそが平和外交の強固な後る盾となり、 多くの問題を平和的に解決することを力強くパバックアップするのだ。
中国と米国が「戦略的決勝期」に突入するなかで、最大のリスクは、 米国の覇権的心情が膨張し、軍事的冒険主義に出ることで、 「戦略的決勝期」が「戦略的決戦期」へと変わってしまうことである。
中米両国間の「決勝」が(実際の軍事的衝突をともなう)「決戦」に変わるのを防ぐために、 中国にできることは強軍化の歩みを加速させることだ。 一刻も早く、戦わずして敵兵を屈服させられる威嚇力と戦闘力を備えることしかないのだ。
中国は米国との政治的攻防、経済的競争、外交的闘争においては 戦略的な主導権を掌握できるだろう。 しかし、米国との軍事的攻防において主導権を奪うのは極めて難しい。 なぜなら、米国の中国への対応はこれまで、 政治的、経済的、文化的、外交的な分野における封じ込めから、 軍事的な封じ込めに転換しているからだ。 これは「戦争による封じ込め」と言ってもいいだろう。 これからの10年、軍事的攻防こそが中米関係にとって最大の課題になるということだ。
第4章 習近平国家安全戦略の4大転換
我々は政治制度やイデオロギーといった分野で、西側諸国とは完全に異なる。 この事実は、我々と西側諸国との間の闘争と攻防は、調和がとれないことを意味し、 長期的かつ複雑で、時に極めて厳しいものになるだろう。 西側諸国は、国家戦略や価値観において、 我々のような社会主義大国が平和的発展を順調に実現する姿を決して見たくないのだ。 我々が発展すればするほど、西側諸国はより焦燥感を覚え、 我が国に対して「欧米化」や分裂工作を強めてくるだろう。
第5章 反台湾独立から祖国の完全統一へ
中国の台湾問題において、米国は長期的に1つの「話語体系」 (影響力の行使を目的とする世論形成システム)を築き上げてきた。 それは、中国大陸は台湾に対して「平和的解決」「平和的統一」だけが許され、 武力を行使してはならないという主張だ。 台湾が平和的に回帰することを最も望み、 平和的統一に最も努力しているのは中国であって、米国ではないにもかかわらず。 米国が中国に対して、台湾に武力行使をしてはならないというルールを設けることは、 両岸の分離、中国の分裂状態の維持、 中国が国家統一を実現することへの干渉と妨害にほかならない。
19世紀の米国がいかにして国内の分裂勢力を粉砕したかを見よ。 米国が大規模な統一戦争に踏み切った断固たる決心と、払った甚大な代償を見よ。 そうすれば、21世紀の中国に対して平和的手段を使って国家統一を実現しなければならない と求める論理がいかに偽善的であるかが分かるだろう。
我々の願いは平和的統一だが、統一は平和よりも尊い。 平和的手段によって統一が実現できないとき、 平和のために統一を犠牲にしてはならず、放棄してはならない。 平和のために統一を無期限に延期するようなことがあってはならないのだ。
武力を使った統一は、巨大な代償が伴う。 しかし、「台湾独立」勢力が力をつけ、国家から分裂することを決心したり、 ほかに選択肢がなかったりした場合、 中国大陸は「中国統一戦争」という偉大な旗印を高らかに掲げ、 台湾独立を粉砕する決意と気概をもって武力統一を実行しなければならないのだ。
1860年代の米国内戦は、 米国が経験してきたどの対外戦争よりも残忍で血みどろの争いだった。 米国内戦では、北部が南部を徹底的に打ちのめし、 4年間の戦争を通じて双方の死傷者は膨らみ、国が背負った代償も大きかった。 21世紀の中国統一のための台湾戦争は、「米国内戦モデル」を回選しなければならない。 つまり野蛮で陰惨な戦争ではなく、人類史のなかで前代未聞の 「知能戦」「文明戦」そして「死者ゼロ」の戦い方でなければならない。 この戦争は、「中国の特色ある新型戦争」と言え、 世界戦争史上の奇跡を起こすもので、 21世紀における知能戦争の新境地を切り開くものになるだろう。
ただ、その際には深刻な問題が起こりうる。 それは、中国の台湾への「武力行使権」の問題、 つまり中国が台湾に武力行使をする正当性の問題である。 台湾で深刻な危機が生じなければ、中国は台湾に武力行使すべきではなく、 また武力行使の権利を持っていないという誤解や曲解をしてはならない。 我々は平和的統一という「御経」を念じ続けるわけにはいかないし、 台湾と中国の長期的な事実上の分裂や独立を永遠に容認し続けるわけにはいかないのだ。 なぜなら、こうした考え方は、中国が国家を統一する手足を縛り、 有利なタイミングで国家を統一する上での 戦略的な主導権を失わせることにつながるからだ。 台湾独立勢力がますます発展、膨張し、統一に抵抗して実現を遅らせることになる。
武力による台湾併合のためには、「中国統一戦争」を断固として戦わなければならない。 この戦争は、「21世紀の新型戦争」という特殊な戦争であり、 その最大の特徴は「死者ゼロ」「全面勝利」というものだ。
第6章 イデオロギー戦で打ち勝つために
習近平主席は……演説した。
「解放軍報は軍報と呼ぶが、本質的には党のメディアであり、 党にとっての有力な武器であり、党の手中に置かれなければならない。 この世界において超人的なメディアなどない。 すべてのメディアはあらゆる手法でその階級性や政治性を表現している。 この点において、我々の認識が曖昧ではいけない。 西側のいわゆる『報道の自由』に惑わされてはならないのだ」
習近平主席は……強調している。
「世論の誘導、とくにインターネット上の世論工作を重視して主導権を握り、 政権にとってプラスになる情報を伝えていくことで、 改革推進のために良好な世論環境をつくっていくのだ」
軍事闘争においては、相手を知り、己を知ることで、 初めて勝利を手にすることができる。 イデオロギー闘争においても同じことが言える。 米国は長期にわたって、中国に対して「カラー革命」を企て、 「文化冷戦」を実行してきた。 ある研究資料によれば、米国はすでに米国籍を取った華人を利用して、 1000以上の中国「国学文化研究団体」を設立し、 中国共産党と解放軍に関する大規模なネガティブキャンペーンを展開し、 中国人民の党と政府への信頼に握さぶりをかけている。 英国のあるシンクタンクの研究によって、米国が中国に対して、 「文化精神抹殺戦」を展開していることが明らかになっている。 具体的には、数十年にわたって、 ある種の文化冷戦を仕かけて中国共産党の執政に終止符を打ち、 中国を6〜8に分割した上で、 欧米によってコントロールされるように計画しているという。 そのために、米国はプロの書き手を組織し、 読みやすい文章やコメントを執筆、編集させ、 米国資本が関係するインターネットのプラットフォーム もしくは多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーを使って、 中国社会に普及させている。
第7章 新時代の中国が直面する8つの戦場
ランド研究所の「報告書」は……続ける。
「東シナ海で紛争が起きた場合、米国が日本を軍事支援する意思を 中国は過小評価するかもしれない。 しかも、この海域では米中両国も係争を抱えている。 中国が200カイリの排他的経済水域で主権を宣言したとしても、 米国はあくまで公海だという見解を崩さない。 双方が互いの主張を強めれば、両国軍は一般即発の状態に陥るだろう」
東シナ海において、日中間の領土紛争に加え、 中国の管轄海域をめぐる米中間の見解の相違も、 中国と開戦する理由になることを示している。 米国は19世紀末にアジアに進出して以来、中国と日本を分離させ、対立させることで、 アジアを分裂させて支配することを東アジア戦略としてきた。 米国が北東アジアで中国と開戦するとしたら、必ずや日本と一緒に戦うことになるだろう。
中国を封じ込めるために、米国は2つの国家を重視しているようだ。 中国の北東にある日本と、南西に位置するインドだ。 米国にとって最も理想的な状態とは、北東で日本が、 南西でインドがそれぞれ中国と交戦することだ。 日本との対立は主に海を隔てた攻防となる。 インドとは、かつては陸上国境をめぐっての争いだったが、 いまでは米国が中国を封じ込めるための「アジア・リバランス戦略」を 「インド太平洋戦略」へと格上げしたことによって、 陸上での紛争からインド洋にまで戦線が広がっている。 これにともなってインド洋の戦略的地位が向上し、 中国封じ込めにおけるインドの役割が増している。
香港という国際都市は、見た目はとても華やかだが、 社会の底流にははさまざまな策動がうごめいており、 あらゆる思想や価値観が入り混じっている。 香港は世界に名だたる情報の中心地であり、米国や英国などが長年、スパイ活動をしてきた。 香港という前哨陣地で、 浸透工作や敵対勢力によって機密情報を盗まれるのを防ぐ闘いは非常に厳しい。
香港という戦場の重要性は、 米国が香港に配置した拠点の能力や規模からも透けて見える。 米国は世界各地に外交機関、軍事基地、支援団体などを配置しており、 米政府の軍事戦、政治戦、文化戦を実行する拠点となっている。 現在、米国が香港に駐在させている領事館員は1000人に上る。 まさに米国が香港という戦場に送り込んだ「特殊兵団」であり、「トロイの木馬」なのだ。 1000人の領事館員は、香港独立勢力と結託してさまざまな扇動工作をして、 中国との特殊な戦闘を展開しようとしている。
香港という戦場では、政治だけではなく、情報や軍事面での闘争も繰り広げられている。 香港独立勢力による暴動に対して、 「一国二制度」を死守することは人民解放軍の重要な使命なのだ。 台湾海峡と香港の戦場には相違点がある。 将来の台湾海峡の戦争は、台湾独立分子を粉砕し、 国家の統一を実現することが目標であるのに対し、 香港における戦場では、「一国二制度」という香港返還の成果を死守して 国家の統一を守ることが最大の目標となる。 つまり、「一国二制度」を堅持するのか、それとも「二国二制度」になるか という問題と言える。
第8章 世界一流の軍隊になるための戦略
中国が世界一流の軍隊を建設するのは、 米国が中国にもたらす脅威に対処するのが目的であって、 米国に脅威を与えるためではない。 中国は世界一流の軍隊を建設することを通じて、①米国に戦争を発動させない、 ②米国はこれまで何度も新中国に対して核兵器使用の威嚇をしているが、 中国は米国に対して核兵器使用の威嚇をしない、 ③軍事覇権を求めず軍事同盟も結ばず、冷戦にも与しない、ということを目指す。 はたして、米国にもそれができるだろるうか。
米国は中国と共に「21世紀中米平和協定」の制定を提案する。 この協定には、①不戦、②核兵器の不使用、③軍事同盟を結ばない、 ④軍事的包囲網で封じ込めをしない、⑤冷戦をやらない、⑥内政千渉しない、 という「6つのノー」が盛り込まれるべきだ。 また、国連は『世界憲法』を制定して、 覇権主義を管理し、戦争を防止し、テロリズムの制圧を目指す。
第9章 科学技術の振興こそが強軍化への近道
第18回共産党大会以降、 技術革新型の国家と軍隊の建設において目覚ましい成果を上げてきた。 世界最大の電波望遠鏡の完成、量子技術の発展、無人宇宙補給機「天舟1号」の発射成功、 初の国産旅客機の離陸成功などだ。 習近平主席は「中央軍民融合発展委員会」と「中央軍事委員会科学技術委員会」を新設し、 軍事人材の育成メカニズムや軍事科学技術の研究体制を再構築し、 核心的な先端技術の発展に焦点を当て、戦略性、先進性、 革新性を持つ技術の発展に注力してきた。 ここ数年、航空母艦や原子力潜水艦のほか、 中国空軍の主要戦闘機「J-20」や新型輸送機「Y-20」などの開発を急ピッチで進めている。 また、一連の戦略ミサイルは全世界を震撼させている。
新中国は建国後20年余りで、カネ、モノ、技術を欠く状況下にもかかわらず、 「両弾一星」を達成した。 その中心的役割を担った銭学森、銭三強、 鄧稼先のような世界最先端の科学者や優秀な人材がいたからだ。
第10章 富国強兵の鍵となる軍民融合
国防建設によって経済建設を促進していくことには、中国にとって特別な意味がある。 中国経済は「新常態」(高度成長期後の新たな段階)に入っており、 伝統的な発展による推進力や効果が衰えているなか、 国防建設の経済建設への波及効果と促進作用によって これを補う必要が出てきているからだ。 軍用の技術や人材、設備を国民経済の領域に開放して転用していくことで、 新たな発展空間を切り拓き、経済発展モデルの転換と構造改革を促すことにつながるのだ。
第11章 世界一流軍隊実現の要は海洋にあり
中国は海洋を通じて国の門戸を開いて、世界に進出し、 グローバリゼーションとも融合して、経済成長を促した。 中国の対外開放とはまさに、海洋の開放であり、海外への開放なのだ。 経済特区の設立を通じて沿海地域における先行的な開放と発展を実現しようとした。 国家の海洋権益を守り、周辺国家との領有権紛争を解決するため、 「主権は我が国にある」という原則を守りつつ、 「争いを棚上げして、共同開発する」という協力と互恵関係を提示してきた。 鄧小平時代の中国海洋戦略にとって核心的関心は、 国家海洋の安全を守るという基礎の上で、海洋資源を重点的に利用し、着実に開発し、 国民経済の発展を加速させたことにあった。
第12章 21世紀の人民解放軍は国土内には留まらず
米海軍の軍事基地には、米国の国益を守る以外に、地政学的な要衝を独占的に支配し、 世界全体を支配して米国の覇権を守るという目的がある。 「世界トップの軍事的地位を維持する」ことは、 米国が公に宣言している国防戦略目標の1つで、 その本質とは米国の覇権的地位を守ることにほかならない。 解放軍が世界に進出することは、積極的防御という戦略方針の一環で、 防御型の配置であり、米国が全世界に敷いている覇権型の戦略とは根本的に性質が異なる。 中国が将来的にどれだけ多くの軍事基地を構えたとしても、 米国の軍事基地の数を越えることはない。 中国が海外でどれだけ軍事力を強化したとしても、他国の主権を侵犯したり、 ミサイルで廃墟にしたりはしない。
監訳者解説
筆者は今回、本書の削除された部分を含む、すべての草稿を入手することができた。 発行された中国語版と見比べると、草稿は三倍近く分量が多いことがわかる。 なかでも注目すべきは、中国語版では第5章「反台湾独立から祖国の完全統一へ」 が丸ごと削除されていたことだ。
本書は、草稿から日本の読者向けにエッセンスを抜粋したものだが、 台湾有事をめぐる米中対立の最前線である日本で、 とくに台湾問題に関わる削除部分を含めて、 世界に先駆けて出版できたことの意義は小さくないだるう。
訳者あとがき
面と回かっての識論をベースに、それぞれ問題意識を持ち帰り、 書面で質問と回答を繰り返し、書籍化した。 それが、 『日本夢 ジャパンドリーム──アメリカと中国の狭間でとるべき日本の戦略』 (2018年、晶文社)である。 (検関の関係で)構成や内容は若干異なるが、中国語版も 『日本夢──沈黙、但遅早要選択』(2016年、東方出版社)という書名で出版している。 この企画を実行する上で決定打となったのが劉大佐の一言である。
「米国には建国以来のアメリカンドリームがある。 中国にもチャイナドリームがある。 習近平が指導思想にし、私も本に書いた。 日本にジャパンドリームはないのか?あるべきだ。 日本にジャパンドリームを声高らかに提唱し、 国益の増強に努めようとする政治家はいないのか?」
破天荒な主張に聞こえるかもしれないが、筆者の理解によれば、 習近平国家主席以下、共産党、解放軍指導部は同様の見解を有している。 印象的だったのは、劉が、日本が日米安保を破棄し、 独立自主の外交政策を実行する過程で、核武装を容認する姿勢を示したこと、 そして内政の政治体制として、米国の民主主義に理解と尊重を示したことである。