久しぶりにバッハ聴こうと思いたった。
もちろん音楽聴き始めた頃から知ってはいたが、ちゃんと聴いてみようかと思ったのは、 GEB、 『 ゲーデル、エッシャー、バッハ 』 を読んで『 音楽の捧げもの 』を知った時である。
フーガやらカノンやらの形式に惹かれたということではあるが、『捧げもの』を久し振りに聴き、 さて、バッハもいろいろあるが、似たようなのをもっと聴きたいというわけで、 形式から攻めるでなく、なんとなくリストを眺め、思いつきで短調のソロの作品から選んでみた。
それが、Massimo Colomboの"Bach: Partitas No.2,3&6 (Una Corda)"という盤で、これが当り。
クラシックの演奏の一般的な評価基準は持ち合わせないので、それに照してどうかとかは まったくいえないのだが、曲が期待通りなのは勿論として、演奏されてる楽器があきらかに 普通のピアノでも、チェンバロでもない音でこれがなんとも嵌っている。
ちょっとローズにも似ているような、チェンバロっぽさもあるような、おもちゃのピアノのようでもある 非常に魅惑的な音の楽器である。
じっとタイトルを見ると"Una Corda"とあるが、もしかしてこれが楽器の名前だったりして、と、 検索してみたらやはりそうだった。 "Una Corda"というラトビアのクラビンス・ピアノの製品 らしい。
64鍵の小型ピアノでアップライトのような形状だが、特徴は、
- 各音に割り当てる弦が一本
- 響板はステンレスフレーム
おそらくこれで弾いたのが件のパルティータなのだろう。 ただ、それはローズやチェンバロを思わせる、弦を引っ掛くようなアタックも聴こえるように思うのに、 Una Cordaはハンマー打鍵というのが若干意外ではある。
「オープンデザインとなっており、自分で音色、音量の調整も可能」とあるのが、 いったいどういう風になるものやらと思うが、 他のUna Cordaを使った音源を探して聴いてみることになるだろうな。
さて、演奏しているMassimo Colombo、こちらもあまりまとまった情報が(Wikipediaにさえ)なく、 多少手間どったが、どうやら、Jazzの人だけどクラシックからポップまで、横断的な題材を 扱う鍵盤の人らしい。 バンドじゃなく人名というのも、へえ、である。
自作曲もあるが、取り上げている題材は、 BachをはじめとしたClassicはもちろんBurt Bacharach、Weather Report(!)、 Bud Powell、映画や舞台の音楽集など多岐に渡り、普通のピアノによる作品がメインだが、 Una Cordaによる作品も他にいくつかあるらしい。
Bio.もみつからず、自身のWebもないようで、どういう存在なのかまったく謎が多いのだが、 どうやらイタリアの人らしい。 イタリアのマイナーレーベル、crocevia di suoniから作品を出していて、 そこに紹介 がある。 1961年ミラノ生まれ、もともとClassicの人だけど、Jazzもやりはじめた経緯がある由。 作曲家で演奏家。 当初抱いた「Jazzの人」というのは少し違うか、なにしろイタリアだし。 その音楽は、 とある記事 によれば、 「現代音楽的要素の強い、あまりにも完ぺきな音作りには好みが分かれるところ」 とあり、確かに、 ピアノトリオの一応Jazzのフォーマットを取っている作品 (ドラムスはPeter Erskine!)をさらっと聴いても、 いわゆるJazzっぽい雰囲気はあまりない、ということはつまりJazzなのだな。 "Acoustic Weather"というWeather Reportの作品を取り上げた作品も 確かにWeather Reportの曲を演奏しているけれど、受ける印象は全然違う。 で、これはまた魅力ある演奏である。
"Tempered Blues"という作品は、アルバムや曲のタイトルを見るとBluesを意識しているように 思えるのだが、曲はいわゆるBluesのフォーマットではない(一、二曲それらしいのはある)。 が、ブルージーな雰囲気がないかといわれると、いやそんなこともないといいたくなるような演奏である。
というわけで、また聴いてみる世界が広がったようだ。
『捧げもの』から、という点では、正攻法でバッハのフーガやカノンも聴いていかないとと思う。